大森靖子「私は、死ぬことの希望よりも生きる方を選んだ」 「大森靖子VS大森靖子&シン・ ガイアズ」ライブ・レポート

大森靖子が11月22日(水)恵比寿リキッドルームで「大森靖子VS大森靖子&シン・ガイアズ」を開催した。開演時刻ぴったり、kitixxxgaiaツアーと同じく「カルミナ・ブラーナ」が流れる中、シン・ガイアズの面々が登場した。メンバーはkitixxxgaiaツアーと変わらず、あーちゃん(G / きのこ帝国)、畠山健嗣(G / H MOUNTAINS)、えらめぐみ(B / 股下89)、サクライケンタ(ハイパー担当)、sugarbeans(Key / Tommy & Sammy)、ピエール中野(Dr / 凛として時雨)、そして大森靖子(超歌手)という盤石の7人だ。

荘厳なSEとは打って変わって大森は「いぇーい! 今日のオープニングアクトはお見送り芸人のしんいちさんでーす」と明るく登場。「さんまのお笑い向上委員会」で活躍するモニター横芸人のお見送り芸人しんいちは、大森靖子と同じハミングバードのギターを鳴らしながら、加圧シャツを着込んでるらしいピエール中野や「才能のあるロリコン、以上」とだけ説明されるサクライケンタをいじり倒し、爆笑で会場を温めた。ついには大森との妄想デートをテーマにした歌を披露し、「靖子のブラジャーボロボロ〜、靖子のパンツヨレヨレ〜、貯金全部道重さゆみに使ったのかなー!」と絶唱。「俺は無し〜!」はもちろん「似過ぎてて全く笑えない鬼束ちひろ」まで披露し、大活躍でステージを去った。

会場はすっかり和やかなムードになったが、大森がハミングバードを鳴らし「魔法が使えないなら」を歌い出すと、会場は一気に大森靖子の手中に収まった。弛緩した空気は一変し、観客の息を飲む音まで聞こえてきそうだ。「魔法が使えないなら」に続くのは「マジックミラー」。2番サビでこの日はじめてバンドサウンドが爆発すると大森はギターを背中に回し、ボーカルに全神経を集中させる。ピエール中野の踏む地鳴りのようなバスドラが圧倒的だ。「あたしのゆめは 君が蹴散らしたブサイクでボロボロのLIFEを掻き集めて大きな鏡をつくること」。大森靖子とは、それを聴き、目撃する我々を反映する鏡だ、というメッセージが強烈に響く。

続く「アナログシンコペーション」はsugarbeansの奏でるやさしい音色に包まれる大森の声が印象的だった。「それぞれ音を鳴らそう 混沌から未来を絞り出す どでかいひみつきち」とは大森靖子がその日立つライブハウスのことか。
ライブでの演奏は珍しい小室哲哉作曲「POSITIVE STRESS」も巧みに演奏してのけた(畠山のギターソロが圧巻!)。

MCでは「とにかくライブがやりたいということで、『大森靖子VS大森靖子&シン・ガイアズ』という弾き語りもバンドも両方あるって書いたらいっぱい人が来てくれるかなと思っただけで、特に対抗意識もなく、今日もいつものように皆さんの持ってきてくださった生活とかを歌って、音楽に溶かして音を出すってことをやっていければと思っています!」と語り「ここから盛り上がっていくゾーン」と宣言して「非国民的ヒーロー」をパフォーマンス。
どんなメロディーも軽やかに乗りこなす大森のボーカルに改めて驚嘆する。

「ミッドナイト清純異性交遊」ではこの日いちばんピンクのサイリウムが揺れる。「イミテーション・ガール」をかわいく振り付きでパフォーマンスしたかと思えば、切れ味鋭い「Over The Party」が深くえぐってくる。

初めて自分のことを歌った曲だという「draw (A) drow」は竜巻のような迫力でもって過ぎ去り、一転して上品に落ちていくメロディーと鼓動のようなビートに先導され始まった「流星ヘブン」の浮遊感が心地よい。「draw (A) drow」と「流星ヘブン」の連なりは、大森靖子のインナーワールドに誘われるかのようだ。苛烈で「激情派」とも言われる大森靖子の音楽だが、sugarbeansが楽曲制作に携わりシン・ガイアズの一員となったことで、ある種の気品を身にまとったように感じられる。大森靖子のもつ感情のるつぼに我々が心地よく身を浸せるのは、sugarbeansのコーティングも影響しているはずだ。

MCでは「モーニング娘。」20周年記念ライブに道重さゆみがサプライズ出演したことへの喜び、そして「流星ヘブン」の歌詞「生きる方を選んでく 生きるほうを選んでく」に託した想いも語った。

「道重さゆみさんが卒業された時は、また会えるなんて思ってなかったけど、こうやって武道館で、しかもモー娘。の曲を歌う道重さんに会えて。だから、生きてさえいれば、希望の方が大きいんですよ。私は、死ぬことの希望よりも生きる方を選んだから、皆さんもどうか生きることを選んでほしいと思っています」。
さらに「人生を30年、音楽活動を10年続けてくると、自分のことと共に、自分の好きな人のことも考えるようになるんです。生きてさえいれば、いろんな可能性があると思うし、私にできることは全部しようと思う。みんながまた会える方向に、色々やれるようにコソコソコソコソ動いて行きますので、見守っていてください」と話した。

そしてLADY BABYへの提供曲「LADY BABY BLUE」を確かめるように歌い上げた。

シン・ガイアズのメンバーがステージを去り、ひとりハミングバードを持った大森靖子は「みっくしゅじゅーちゅ」を弾き語る。キラキラしたメロディーに乗った「幸せのイメージは 捉えた瞬間過去になる」という歌詞がキュートで切実な声音で響く。

「みっくしゅじゅーちゅ」の夏のイメージを引き継いで「夏果て」が物語られる。「さっちゃんのセクシーカレー」を歌い終えると、カポタストを探り探り動かした大森は、鬼束ちひろ「月光」をカバー。ここまでのやや張り詰めた空気を解くように、ふっとユーモアを差しこむ。「真面目なことを言ってると、気持ち悪くなってきて、すぐ茶化したくなる」という大森の照れが垣間見えたようだった。

大森靖子流に日常を言祝ぐカントリーベースの「ハンドメイドホーム」に続けて、「わたしみ」。「高いアイスが好きで 誤解されやすくて バカなやつの理解をすこし諦めている」と歌いながらギターを爪弾く指を止めると、アカペラでパフォーマンスした。

再びバンドセットに戻り、「君に届くな」。あーちゃんのコーラスが絶妙だったが、この日の彼女のコーラスは常に、音源とはまた違った形で大森靖子の楽曲に立体的な輪郭を与えていた。

「絶対彼女」では恒例の「絶対女の子」コール。「ひとりひとり残さず言うので、今日は全員の声を聞かせてください!」と言って、「女子」、「ヤリマン」、「処女」、「童貞」、「日によって男と女の気分が違う人」、「ハゲ」、「サイリウム持ってる人」、「カレー好き」、「ラーメン好き」(「ラーメンの話」を一部歌う)、「おっさん」、「まだまだ若いぞって人」と、観客をいつも以上に細分化して、余すことなくすくい上げた
ファンをひとりひとりの人間として見つめる大森の姿勢を象徴するようなパフォーマンスだ。

激しいギターのストロークで始まった「あまい」は、やがて音の濁流を生み出し、リキッドルームを心地よいノイズで満たしていく。
シン・ガイアズのパフォーマンスはバラバラなのにまとまっている。それぞれが異なる音を鳴らしているのに統一されている。混沌が秩序されている。大森靖子のイメージするコンセプトが、各メンバーに確実に共有されているからだろう。違った色、大きさ、形の音たちが、ひとつの穴にするするとまとまっていく。
その収束地点から始まったのは「TOKYO BLACK HOLE」だ。「今すぐに消えちゃうすべてを歌ってくのさ」という言葉にまったく嘘はない。

「音楽は魔法ではない」と大森が唱えるように歌い出す。「音楽を捨てよ、そして音楽へ」だ。楽曲のラスト「音楽は魔法ではない」の連呼では、シュプレヒコールが巻き起こった。「音楽は魔法ではない、でも音楽は……」。ここにいる誰もが、その先を知っていたはずだ。

ひとりひとりの人間が抱える、大きさも形も色も重さも異なる感情。
黙っていれば「なかったことにされちゃう」か弱い人間ひとりひとりの想いを、歌で救うという大森靖子の信念と情熱、そして愛情が、彼女の聡明さで持って類稀なる楽曲たちに結晶しているのを実感する。大森靖子から生まれ、作り上げられた音楽の結晶に、皆の想いが乱反射してキラキラと光ること。それが魔法的なのだ。
音楽すなわち魔法ではない。魔法になりうる音楽があるだけだ。そして結局、この日のリキッドルームに来たオーディエンスはことごとくパーフェクトなマジックにかかった。
曲の終盤、メンバー紹介をしたあと「音楽、お客さん!」と叫び、大森靖子はピンクのマイクを観客に委ねた。
リレーされるマイクに、観客の絶叫がぶつけられる。声にならない叫びは、電気信号となって増幅され、スピーカーを通して会場を切り裂く。
観客の数だけ声があって、観客ひとりひとりの中にも無限の感情がある。そんな当たり前の、しかし生活の中でおざなりにされてしまう大切なことを蘇らせる魔法的な瞬間が、確かにそこにはあった。

暗転した会場にアンコールを求める拍手が響く。ほどなくして、大森はひとりステージに戻ってきた。

「生誕祭の時はあんまりツイッターにいなかったけど、今はツイッターで毎日『おはよう』って言ってるから、毎日いる人にわざわざ会いに来てくれるかなって心配してたけど、無駄な心配でした! 本当にありがとうございます!」と感謝の気持ちを述べ、さらに次のように続ける。
「私は音楽が好きだから、自分の捉えたものすべてを音楽にぶち込んで、みんなに見せられる人になって。そしたらみんなも自分自身にとって新しい何かを見つけてくれるきっかけになれるんじゃないかなと思って音楽をやっているんです。
でも音楽じゃないもの、文章とかでもとにかくなんでもよくて、ちょっとでもきっかけになればいいと思っていて。それって突き詰めれば『おはよう』だなと思って毎日ツイートしてるんです」。

「TOKYO BLACK HOLE」では「朝には朝の 夜には夜の 挨拶を 愛し方を 繰り返すだけ」と歌われた。「見晴らしのいい地獄」で生き延びるために、僕らは挨拶をかわし、愛し合うのだ。

今年の大晦日は2年連続、新宿ロフトでMaison book girl とカオティック・スピードキングとカウントダウン・ライブを行うと発表したのち、大森靖子は身ひとつ、マイクスタンドの前で「さようなら」を歌った。
「1日でも長く、あなたの最悪な、最悪でも幸せな人生が続きますように! ありがとうございました! 超歌手・大森靖子でした!」とマイクを通さず生の声で伝えると、ステージを後にした。

この日のライブ、ステージ中央には、アルバム『kitixxxgaia』のジャケット、そしてツアーのステージセットにも作品を提供した青柳カヲルの新作ドローイングが掲げられていた。

照明によってコロコロと表情を変えるその絵は、人間の感情を余すことなくカラフルに捉え、聴き手の眼差しによって様々な見え方をする大森靖子の楽曲やパフォーマンスを象徴しているようだった。

大森靖子のライブは、上質なサスペンス映画のように、全てのMC、セットリスト、パフォーマンスが必然性を帯び、繋がっていく。それは大森の思想が確固たるものだからだろう。彼女は一度だってブレたことがない。このライブの延長線上にどんな未来が待っているのか知りたくて、生きる方を選んでく。

 

 

カメラマン:Masayo

取材・文:安里和哲

<セットリスト>

【弾き語り】
1.魔法が使えないなら
【バンド】
2.マジックミラー
3.アナログシンコペーション
4.POSITIVE STRESS
5.非国民的ヒーロー
6.ミッドナイト清純異性交遊
7.イミテーションガール
8.Over The Party
9.draw (A) drow
10.流星ヘブン
11.LADY BABY BLUE
【弾き語り】
12.みっくしゅじゅーちゅ
13.夏果て
14.さっちゃんのセクシーカレー
15.ハンドメイドホーム
16.わたしみ
【バンド】
17.君に届くな
18.絶対彼女
19.あまい
20.TOKYO BLACK HOLE
21.音楽を捨てよ、そして音楽へ
【アンコール】
22.さようなら

9/27発売アルバム「MUTEKI」情報
アルバム「MUTEKI
発売日:2017/9/27()

[CDDVD]
価格:¥5,300(本体価格)+税
品番:AVCD-93734/B

[CD only]
価格:¥3,000(本体価格)+税
品番:AVCD-93735

<収録内容>
-CD-

01 流星ヘブン
02 みっくしゅじゅーちゅ
03 愛してる.com
04 SHINPIN
05 新宿
06 TOKYO BLACK HOLE
07 焼肉デート
08 kill the time 14 you、、
09 子供じゃないもん17
10 絶対彼女
11 ミッドナイト清純異性交遊
12 夏果て
13 あたし天使の堪忍袋
14 Over The Party
15 マジックミラー
16 呪いは水色
17 アナログシンコペーション
18 お茶碗
19 君と映画
20 ハンドメイドホーム

-DVD-
大森靖子MUTEKI DVD
超移動式楽園kitixxxgaia 流星ヘブン行
大森靖子 LIVE TOUR 超移動式楽園kitixxxgaia@Zepp DiverCity 2017.7.20
01. ドグマ・マグマ
02. 非国民的ヒーロー
03. イミテーションガール
04. きゅるきゅる
05. 地球最後のふたり
06. ピンクメトセラ
07. LADY BABY BLUE
08. マジックミラー
09. 夢幻クライマックス かもめ教室編
10. M
11. オリオン座
12. 君に届くな
13. 最終公演
14. あまい
15. TOKYO BLACK HOLE
16. 音楽を捨てよ、そして音楽へ
17. アナログシンコペーション

<アンコール>
18. draw (A) drow
19. ミッドナイト清純異性交遊
20. IDOL SONG
21. 絶対彼女

流星ヘブンMusic Video
01 流星ヘブン[]
02 流星ヘブン[]

ライブ情報
『超歌手大森靖子 MUTEKI弾語りツアー』開催中

【日程・開場・開演・会場】

【秋田】113(金・祝) 湧太郎國之譽ホール 16:00 / 17:00
【山形】114() 若宮寺 16:00 / 17:00
【新潟】115() 新潟県政記念館 17:30 / 18:00
【石川】1110() 金沢21世紀美術館 シアター21 18:00 / 18:30
【広島】1117() 本願寺 広島別院 18:30 / 19:00
【大分】1125() 別府ホテルニューツルタ 8F鶴の間 18:00 / 19:00
【北海道】123() 札幌 サンピアザ劇場 16:30 / 17:00
【福岡】127() 博多百年蔵 18:00 / 18:30
【熊本】129() 早川倉庫 17:30 / 18:00
【宮城】1216() 塩竈市杉村惇美術館 15:00 / 15:30
【大阪】1222() 千日前ユニバース 18:15 / 19:00
【愛媛】112() 松山 萬翠荘 18:00 / 18:30
【高知】113() 須崎市文化会館 大会議室兼展示ホール 17:00 / 17:30
【名古屋】118() 千種文化小劇場 18:30 / 19:00
【東京】120() 中野サンプラザホール 17:00 / 18:00

TOKYO CUTTING EDGE vol.00
出演:大森靖子/TK from 凛として時雨
20171214() 18:00 open / 19:00 start
会場:恵比寿ザ・ガーデンホール

uP!!!SPECIALdabadabada vol.1
出演:銀杏BOYZ/大森靖子
2018227日(火)18:00 open / 19:00 start
会場:Zepp Tokyo

大森靖子 オフィシャルサイト
http://oomoriseiko.info/
大森靖子 オフィシャルファンクラブ「実験現場」
https://seiko-gkn.com/

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