愛しかない革命的スプラッシュ・ショー。欅坂46 『欅共和国 2019』ライブレポート 


欅坂46の毎年恒例となった野外ワンマンライブ「欅共和国」が山梨・富士急ハイランド・コニファーフォレストで行われた。
7月5日から7日まで3日間にわたって開催された「欅共和国2019」には、述べ48,000人が来場。今年も「びしょびしょ・ぐちゃぐちゃ!」をテーマに、昨年比5倍の210トンもの水量で、観客を濡らしつくした。当レポートでは7月7日最終日の模様をお届けする。

「雨に濡れるのは、いい思い出になる」

都心から車で約1時間半の道のりをかけてたどり着く山梨・コニファーフォレストは、首都の磁場から少し自由になれる開放感ある場所だ。

《欅坂46》と聞けば人々は“叛逆”や“反骨”、“煩悶”といった少女の葛藤をイメージするだろう。「サイレントマジョリティー」からスタートした彼女たちは、そのイメージをうまく活かすことで飛翔したが、一方で当てはめられたイメージが彼女たちを苦しめていないか。

しかし「欅共和国」は、欅坂46のメンバーたちにとって呼吸しやすい場なのかもしれない。本編中のMCで「欅共和国」初参加の2期生・松田里奈が「あいにくの雨になっちゃったんですけど、私個人的に雨で濡れるの好きなので、いい思い出になるんじゃないかなと思ってるんです」とはにかんだが、その言葉の通りだった。

大量の水が舞台セットから放射され、メンバーたちは放水したり水風船を投じたりして、ファンをとことん濡らし、自らもびしょびしょになる。時に無邪気で、時に真剣で、そんなアイドル・欅坂46がいつも以上に様々な表情を見せてくれるのが「欅共和国」の魅力だ。
葛藤を抱えるだけでなく、屈託のない笑顔を見せることだってある。少女たちのそんな当たり前の姿をまざまざと見ることができた。
そして結果的に、この日欅坂46は「サイレントマジョリティー」の呪縛から解き放たれたように見えた。

ライブは、船員に扮したマリンルックなメンバーたちが、船に見立てたステージを掃除するようなミュージカル風の演出で幕を開けた。

総勢16人のマーチングバンドの演奏に乗って、尾関梨香が登場。バケツの水を投じたり、シンバルを叩いたりして、メンバーたちを先導していく。どこか幼気で愛嬌のある笑顔の特徴的な尾関が中心になることで、欅坂46のイメージがいい意味で崩されていくようだった。

デッキブラシやホウキを投げて交換したり、手旗信号を行ったりするメンバーたちの躍動感あるパフォーマンスに、目が忙しくなる。
ステージは濡らされ磨かかれることで清められる。去年の「欅共和国 2018」からいろいろあった一年間を洗い清めることから、欅坂46の祝祭は始まったのかもしれない。

そしてついにキャプテンルックの平手友梨奈が登場し、会場のボルテージも最高潮となった。汽笛が鳴り、出航が告げられる。

旧メンバーの不在を乗り越える

衣装を白シャツにリボンタイ、紺色のスカートに替えて披露された1曲目は「世界にしか愛はない」だった。
原曲でポエトリーリーディングを担当した長濱ねるは卒業を控え、今回は欠席し、今泉佑唯もすでに卒業してしまった。その不在を埋めるのは、土生瑞穂と小林由依。そう、今回の「欅共和国」は欅坂46という船を降りて新たなステージに向かった仲間たちの不在との戦いでもあった。

続く「手を繋いで帰ろうか」では客席を十字に切る花道へとメンバーたちが駆け出し、三方向にそびえるやぐらや、客席すぐ横の通路を動くいかだを模したフロートに乗って、客席に放水し、水風船やサインボール、フリスビーを投じる姿も見られた。

「青空が違う」も、センターステージでグループ内ユニット「青空とMARRY」のメンバー守屋茜、渡辺梨加、渡邉理佐、菅井友香らがパフォーマンスするなか、他のメンバーたちは会場を所狭しと動き回り、ファンと笑顔を交わしていた。青マリもまたメンバーの志田愛佳が卒業したため、フルメンバーを見ることは叶わなくなったが、その穴をメンバー全員で補う姿勢に胸が熱くなる。

「アンビバレント」で側転する平手の足を支えたのは、2期生・松田だった。別れがあれば出会いがあって、そうやって受け継がれていくものが欅坂46をつくっていく。このグループがネクストステージに入ったことを印象づけるシーンだった。

冒頭から5曲連続の後、ようやくMC。キャプテンの菅井が船上をイメージしたステージを紹介し、グループ復帰を果たした原田葵に話を振る。原田は「久しぶりに(ステージに)立つのに、こんなにたくさんの人の前ですごい緊張しているんですけど、精いっぱいがんばるので、一緒に盛り上がってください!」と、以前よりも少し大人びた表情で語った。

この日行われたMCはこの一回だけ。メンバーのトークやキャラクター以上にパフォーマンスに自信があることの裏付けだろう。

高難易度の演出を実現する欅坂46のパフォーマンス力

「バレエと少年」では端正で上品な所作で世界観を見事に表現した。

「制服と太陽」を挟んで披露された「バスルームトラベル」はこの日はじめてのクライマックス。尾関、小池美波、そして長濱の3人によるこの曲をはじめて、メンバー全員でパフォーマンスしたのだ。
メインステージには長テーブルとイスが並べられ、MVビデオをメンバー全員で再現するかのよう。ガーリーでどこかメルヘンチックなテイストが、欅坂46に新たなイメージを与えるようで新鮮だ。小池と共に実質ダブルセンターとなっていた尾関だが、オープニングでの活躍も含めて彼女が「欅共和国 2019」前半戦の主役のひとりだった。

ライブの折返しを飾った「Nobody」は真っ赤に染まったステージ上でのシルエットダンスがセクシーに光った。影になった少女たちの存在感が異様に際立ち、日の落ちたコニファーフォレストで欅坂46がいよいよギアチェンジする。
ここまでシングル表題曲は「世界には愛しかない」と「アンビバレント」の2曲のみ。欅坂46の行く末を探るような楽曲が並ぶ。セットリストが求めてくる期待に応えるメンバーたちが頼もしい。

ポップなサマーソング「危なっかしい計画」ではブラスバンドが再び登場し、豪華なアレンジを奏でた。サビで振り回される緑色のサイリウムと白いタオルが日の沈み始めた会場に映えた。

FIVE CARDS(上村莉菜、長沢菜々香、渡辺梨加、渡邉理佐、土生)のユニット曲も彼女たちをフィーチャーしつつ全員でパフォーマンス。炎の演出も展開しながら、ウォーターショットで打ち上がった水滴が雨粒と共に降り注ぎ、白色の照明を反射して幻想的な空間を作り出す。続く「Student Dance」はこの日最大の興奮をもたらした。低音の効いた楽曲のクオリティに圧倒されながらも、やはり彼女たちのパフォーマンス力の高さに唸った。センターステージにはいつの間にか水たまりができあがっており、平手を中心に小林、鈴本美愉、石森虹花、齋藤冬優花の5人が水を足で跳ね上げたり、スライディングを決めて水しぶきを上げたりしながら、力強く踊る。ミュージックビデオのワンシーンを再現するかのようなパフォーマンスに思わずため息がこぼれた。
ラストはセンターステージに集結した他のメンバーたちも一心不乱に踊り続け、その姿をライトの点ったスマートフォンで撮影する平手が強烈な印象を残した。スマホを掲げるだけの平手だが、その佇まいはある種の狂気を孕んでおり、“撮影者=傍観者“を告発するメッセージ性を感じた。

楽曲のコンセプトを表現する巧みなステージ演出。そして演出サイドが要求するパフォーマンスクオリティを実現するメンバーたち。多忙を極める彼女たちが、このステージに向けてどれだけの労力を捧げたのか想像もつかない。

コンセプチュアルな構成が楽曲に新たな命を吹きこむ

凄みのあるパフォーマンスを見せた中盤から後半に移るとき、スクリーンにムービーが流れ始め、ストーリーが語られる。欅坂46とファンの乗ったこの船を嵐が襲うという。そうして流れ出したのは「避雷針」の流麗なピアノの旋律。先ほどのパフォーマンスでずぶ濡れになった衣装を、ハーネスベルトが特徴的なワンピース(1期生は緑、2期生は青)に着替えたメンバーたちが再登場。
ここからは怒涛の勢いで、ラストまで駆け抜けた。この日は「アンコールなし」とあらかじめ予告されていたが、たしかにこのコンセプチュアルな終盤戦の余韻を崩すことなく終わらせたのは英断だった。

雷鳴の効果音が雨雲を呼び寄せたのかさらに雨脚は強まり、まるで4DX映画でも見ているかのように物語に没入していく。

「AM1:27」では船窓を象った円から溢れる極彩色のネオンのなか、平手、鈴本、小林が躍動。ここから雨に濡れた平手の前髪が目を覆い、謎めいて見えるのがクールだった。

「I’m out」を経て、またムービーが始まる。欅坂46とファンを乗せた船は沈んだらしい。海底で彼女たちが突然歌いだしたのは「キミガイナイ」だ。誰よりも大切な人とわかりあえず、部屋で果てしのない孤独を味わうこの楽曲。“君のいないこんな宇宙 枕を投げて叫ぶ 消えてなくなれ”という歌詞にハッとさせられる。

“本当の孤独は誰もいないことじゃなく 誰かがいるはずなのに一人にされてる この状況”は宇宙であり、深海の底であり、自分の部屋なのだ。わたしたちにとって日常のすぐそばにある孤独の奈落は、宇宙であり深海。そんな絶望をか細い声で歌う欅坂46のメンバーたちのひとつひとつの声が束となり、夜闇に響き渡るエモーショナルな時間。
ステージと客席は、ウォータースクリーンで遮られている。「キミガイナイ」の世界観を拡張する感動的なストーリー・演出だった。

少女たちの祈りのような歌によって船は浮上し、「語るなら未来を…」を歌い踊る。”もう失った未来なんて語るな“、”過去など自己嫌悪しかない 語るなら予言を”と悲痛なまでにひたすら前を向こうとするこの曲を聴きながら、欅坂46が経験した(している)宇宙や海底での苦しみを想像した。
彼女たちはそれでも視線を落とさず未来を見据え、歩を進める。2期生を含めて、全員の目の力強さに息を飲んだ。

緊張感のあるパフォーマンスを経て、「風に吹かれても」では一陣の風が吹く。ファンクで軽やかなアレンジが印象的なこの曲を笑顔でこなす彼女たちが眩しい。これまでの重低音の効いたサウンドから一転したある種の清涼感が心地よかった。

「サイマジョ」の呪縛から解き放たれる欅坂46

この日最大のウォータースクリーンがステージ前方に扇状に広がり、そこにポセイドンが映し出される。プロジェクションマッピングで水の扇に投影された海の神は、欅坂46に最後の戦いを挑むという。

神を迎え撃つ楽曲は「サイレントマジョリティー」だ。オープニング時のマリンルックに再び身をくるんだ彼女たちが、船長・平手を先頭にして花道を進み、センターステージで横一列になりしゃがみ込む。拳を掲げた平手が力強く立ち上がると、それに勇気づけられたように、全員が立ち上がりフォーメーションを整え、“夢を見ることは 時には孤独にもなるよ 誰もいない道を進むんだ”と歌う。

欅坂46にとって「サイレントマジョリティー」はある種の呪いでもあっただろう。デビュー曲にして最大の成果を上げ、多くの人びとが共感を寄せたこの楽曲は、良くも悪くも欅坂46のイメージを強固に作り上げた。
しかし、この日最後にパフォーマンスされた「サイマジョ」は、決して呪縛の歌ではなかった。あらゆる困難を乗り越えた先で、再び帰れる場所としてのサイマジョが、たしかにそこで鳴っていた。
船を降り、新たな旅へ出た者たちへ最大のエールを送りつつ、新しく加入したメンバーと共に、この先の道を進む。彼女たちが迷ったり苦しんだりしたとき、これからも「サイマジョ」は彼女たちを支えてくれるはずだ。

今後「欅共和国 2019」を振り返ったとき、このライブ最大の収穫は、欅坂46を「サイレントマジョリティー」の呪縛から解いたことだったと知ることになるかもしれない。
メインステージに戻ったメンバーたちは錨を上げ、新たな船出に向けて踊った。彼女たちの前途を祈るように、夜空に花火が咲き「欅共和国2019」は幕を閉じた。アンコールはないうえに、今後のライブ予定や新曲の発表といったサプライズもないままに終わったが、それを不満に思ったファンはいないだろう。
今の欅坂46は、自らのパフォーマンスに自信を持ち、ひとりひとりが確かなポジションを占めて、盤石の布陣といえる。この勢いのまま夏の全国ツアーに向かっていく欅坂46が楽しみでならない。「語るなら未来を」の心持ちで、期待は増すばかりだ。

PHOTO:上山陽介
TEXT :安里和哲

「欅共和国2019」
日程:2019年7月5日、6日、7日
開場:16:00 開演:17:30
会場:富士急ハイランド・コニファーフォレスト

【セットリスト】
オープニング
Overture
1:世界には愛しかない
2:手を繋いで帰ろうか
3:青空が違う
4:太陽は見上げる人を選ばない
5:アンビバレント
MC
6:バレエと少年
7:制服と太陽
8:バスルームトラベル
9:結局、じゃあねしか言えない
10:Nobody
11:危なっかしい計画
12:僕たちの戦争
13:Student Dance
14:避雷針
15:AM1:27
16:I’m out
17:キミガイナイ
18:語るなら未来を・・・
19:風に吹かれても
20:サイレントマジョリティー

 

欅坂46夏の全国アリーナツアー詳細

【日程・会場】
<宮城>ゼビオアリーナ仙台
2019年8月16日(金)
開場 17:00 / 開演 18:30

2019年8月17日(土)
開場 15:30 / 開演 17:00

2019年8月18日(日)
開場 15:30 / 開演 17:00

<神奈川>横浜アリーナ
2019年8月22日(木)
開場 17:00 / 開演 18:30

2019年8月23日(金)
開場 17:00 / 開演 18:30

<大阪>大阪城ホール
2019年8月27日(火)
開場 17:00 / 開演 18:30

2019年8月28日(水)
開場 17:00 / 開演 18:30

<福岡>福岡国際センター
2019年9月4日(水)
開場 17:00 / 開演 18:30

2019年9月5日(木)
開場 17:00 / 開演 18:30

2019年9月6日(金)
開場 17:00 / 開演 18:30

【料金】指定席:7,800円(税込) / 親子席:7,800円(税込)

 

欅坂46公式ホームページ
http://www.keyakizaka46.com/s/k46o/

欅坂46公式Twitter
https://twitter.com/keyakizaka46