大森洋平、TOUR2018ファイナルin下北沢GARDENライブレポート。臆病ものだった唄うたいが魅せた「強烈なハッピーエンド」への出発

大森洋平が、6月15日、下北沢GARDENにて「TOUR2018『強烈なハッピーエンド』」ファイナル公演を行った。

6年ぶりのリリースとなったアルバム『強烈なハッピーエンド』を携えた今回のツアー。そのファイナルは、デビュー22年目となった“唄うたい”の円熟と人間味を感じるライブとなった。

この日は梅雨らしく降りしきったが、会場に空席は見当たらない。開演予定時刻を少し過ぎたころ、ザ・ルミニアーズ「クレオパトラ」のSEと共に大森洋平とバンドメンバーが現れた。客席から拍手が起こり、大森は両手を広げて応える。

大森がギターを爪弾き最初に歌ったのは「ハルカ」。伸びやかで力強いボーカルで慈しむようにしっとりとしたメロディーを歌いあげる。かと思えば、2曲目は軽快に「恋をしようぜ」をパフォーマンス。ギターの西川進がキレのあるソロを弾き、会場は湧いた。続く「光になりたい」はミドルテンポが心地よく、“あなたが笑う 明日を願う 歩きつづける 最後の理由”という歌詞に、長い“唄うたい”生活を経てきた大森の心境を垣間見る。

「ようこそ! 大森洋平です」というMCに対して会場から「知ってるー!」と声が上がる。この日のライブは終始アットホームだった。中には子供連れで来ているファンもちらほら見える。

大森のメジャーデビューは1996年のことだ。この日会場に来ていた大森と同年代のファンの青春を、大森洋平の楽曲は彩ったのだろう。

「東京で一番最高の時間になる場所にようこそ。ほんと会えて嬉しいです、どうもありがとう!」と語ると、星野源のストリングスアレンジなども手がけるバイオリンの美央を呼びこみ、「あなたを連れていく」を演奏。美央の奏でるアメリカン・フィドルのリズムと音色が楽曲に広がりをもたらす。

このツアーに帯同したバンドメンバーは大森も語るように「百戦錬磨」の陣容だ。これも大森の才能と、紆余曲折を重ねながらも音楽を諦めなかった姿勢、そしてその人柄のなせるバンド編成だろう。

「ドラマチック」演奏後、大森は「20年ちょっと歌ってるから、この曲があるなら、もうちょっと歌っていてもいいなって思える歌がいくつかあるんですけど、今回のアルバムに入ってるのは全部そんな曲です」と語った。その言葉の通り、この日は過去曲に加えて、『強烈なハッピーエンド』に収録された全11曲を余すことなくパフォーマンス。大森が今回のアルバムに対して大きな自信と思い入れを持っていることがセットリストからも伺える。

MC後の楽曲はベース・上田健司に初めてアレンジしてもらったという2003年発表の楽曲「キリン」。『強烈なハッピーエンド』の制作は今ツアーでベースを担当した上田との再会によってスタートしたと日刊SPA!でのインタビューで大森は語っている。
この大切なミドルバラードを大森は幅広い声域で力強く歌唱した。

ロックナンバー「NO REACTION」を挟み、ドラム・野崎真助がアフリカの太鼓・ブガラブーを叩き、ほのぼのとした新曲「さぁ愛の歌を聴かせておくれ」を響かせる。

この日白眉だったのは「ガーデン」だ。アコースティックギターとフィドル、そしてブガラブーの柔らかなサウンドに包まれているが、歌の核心は孤独そのものだ。“僕の庭にも絶望の花が咲いたよ”と歌い、“君に会いたい”と願いを繰り返すラストに戦慄する。
昨年パートナーを得て、彼女との間に娘をもうけた現在の大森洋平が(過去の楽曲とはいえ)孤独を歌いあげることで、“唄うたい”の根底には未だ払拭されない孤独な部分があるのだと気づかされる。というか、大森だけでなく我々はみな、どんなに愛する人と一緒にいられても孤独を感じる生き物なのだ、と思い知らされる。
人びとは決してひとつにはなれない。それでも同じ庭を持つことはできて、“殺されかけた愛の花に水をあげ”“いのちの花”を咲かせられる。大森洋平の歌う「ガーデン」は決して「エデンの園」なんかじゃない。戦場のような日常のなかにあって守りつづける最後の砦のことだ。

ここから本編ラストまでは『強烈なハッピーエンド』の楽曲が続いた。「ONE」は皆川真人によるピアノ伴奏に乗せ、高らかに歌われた。マイクスタンドの前にすっくと立ち、時に身をよじるようにして声を絞り出す大森。ここまで大森のステージングに派手なところはない。その所作の全ては歌に奉仕するためだけに行われていた。大森洋平が“唄うたい”と名乗りつづけるのも腑に落ちる。

続く「Story」もピアノによる歌唱から始まり、クライマックスに向かってロックサウンドが展開し、「夜明け前 ~ケモノ達の歌~」へと繋ぐ。

「本当いいアルバムができあがったと思っていて」と大森は語りはじめた。

再会したウエケン(上田健司)さんに『(アルバム)作ろうぜ』って言ってもらえて、自分でも納得いく曲が書けてレコーディングができて、ツアー回ってたんですけど。20年以上歌ってきても、自分は本当に臆病者であったなと痛感する日々でした。愛し方も愛され方もわからない自分を、それでも愛してくれる人がたくさんいるって、このアルバムを作って初めて気づきました。だからこそ返さなきゃいけない日々がこれから待ってると思うし、それがきっと『強烈なハッピーエンド』につながっていくと信じているんです。
次は僕のような臆病者たちに捧げる曲を。遅いってことは絶対にないはずだから、もっと愛したいと思います、この日々を。

大森の爪弾くギターの音色が「Kiss」へと誘う。この曲の詞も壮絶だ。

“みんな持て余してる ひとり 持て余してる”“このどうしようもない自意識を塞いで”“この例えようもない言葉の虚しさも 取り返しのつかないこの日々を塞いで 塞いでよって Kiss”

大森を捕らえて離さない「どうしようもない」としか言いようのない自意識や虚しさ、そして臆病が、身を引き裂かんばかりの歌唱で露わになる。
そこにあるのは言ってしまえば瑞々しい青臭さだ。キャリア22年目にも関わらず、こんなにも自身をむき出しにした歌詞を切実に歌える大森は稀有なシンガーではないだろうか。

そして上田と再会した際に初披露し、『強烈なハッピーエンド』制作のきっかけとなった「バイバイBabyまたさよならだ」がバンドサウンドで轟き、アルバム表題曲「強烈なハッピーエンド」が素朴なアレンジで奏でられる。本編ラストは、モータウンビートが気持ちいい「Honey」で観客総立ちとなる盛り上がりを見せた。アンコールで再びステージに現れた大森はグッズのTシャツを着てトートバッグを肩に下げている。大森自らの物販コーナーだ。本編とは打って変わって茶目っ気たっぷりにグッズを紹介する大森がかわいらしく、会場が温かい雰囲気となる。

そして最後のMCで改めて自分の臆病さについて言及した。

俺はずっと臆病もので、信じらんないんだよね、人を。自分に自信がないからだと思うんだけど、弱い部分があるのさ(笑)。それを隠してきたの。唄うたいをやって、かっこつけてやってきたんだけど、臆病だから吠えてたってことに20年かかってようやく気づいたわけ。

臆病で、照れてるうちに何にも言えねえ、じゃあもう何も言わねえ!  もう俺ひとりで生きていくよって。でも、歌うときは、すげえ正直に歌ってるわけよ。やっとね、歌の中みたいに生きたいって思うようになってます。

そしてひとり優しく弾き語ったのは新曲「フレフレ」。かつては「『ガンバレ』って言葉は無責任だと思って、言うのも言われるのもイヤだった」と語る大森が、素直に応援を受け入れ、ファンを応援したいと思って書いた楽曲だ。“雪よフレフレ よろずを埋め尽くせ 君よフレフレ ガンバレ明日まで 負けるな その日まで”という言葉が身に沁みる。

バンドメンバーを再びステージに招き入れる。「禁断のハンドマイクだぜ!  準備はいいのか!? 危険だぞ!」と煽る大森。しかし、マイクコードが絡まり手こずってしまい、上田に「オマエが準備できてねえんだよ」とツッコまれる一幕もあった。
アンコール2曲目は爽やかなサマーソング「逆光」だ。総立ちの観客もからっとした心地よいサウンドと軽やかなリズムに身を委ねた。

そのままの勢いで、ハネるエイトビートに思わず体も揺れる「LOVEMAN!」に突入するのだが、なんと大森が歌詞を失念し曲を途中で止めるというハプニングが起こる。上田が「せっかく俺も盛り上がっていたのに」と笑うと「やりたかったの! やってたら頭真っ白になった、全然歌詞わかんない」と大森がはにかむ。ステージングで魅せようとした途端、失敗続きの大森のおっちょこちょいな可愛げに、会場は和やかなムードとなった。

ギターがイントロを刻み仕切り直すと今度はクールにキマった。

拍手と歓声に包まれると、ステージには大森の娘がやってくる。彼女を抱いた大森を中心にして、バンドメンバーやオーディエンスの集合写真をfujikoによって撮影された。
撮影が終わり、娘やバンドメンバーがステージを去ると、ひとり残った大森は「もう一曲歌っていい?」と言った。マイクも通さずに直立のアカペラで「グライダー」を熱唱する。

“みんな寂しがりのグライダー たった一人じゃ飛べないことも知ってるから生きてる”と歌った“唄うたい”大森洋平は、愛してくれる人びとに支えられ、そして愛する人たちを信じて、より高く飛んでいくことだろう。ステージを去る彼に屈託は感じられなかった。

大森洋平は《強烈なハッピーエンド》に向けてスタートを切った。

 

取材・文:安里和哲
写真:fujiko

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<セットリスト>
01.ハルカ
02.恋をしようぜ
03.光になりたい
04.あなたを連れていく
05.ドラマチック
06.キリン
07.NO REACTION
08.さぁ愛の歌を聴かせておくれ
09.ガーデン
10.ONE
11.Story
12.夜明け前 ~ケモノ達の歌~
13.Kiss
14.バイバイBabyまたさよならだ
15.強烈なハッピーエンド
16.Honey

<アンコール>
01.フレフレ
02.逆光
03.LOVE MAN!
04.グライダー

【大森洋平オフィシャルHP】
http://www.yohei-ohmori.com/yoheitop.html

【大森洋平Twitter】
https://twitter.com/ohmoriyohei

【大森洋平Instagram】
https://www.instagram.com/ohmoriyohei/

大森洋平ライブ情報

スペシャル3つ巴!!!〜RHAPSODY 2周年記念EXTRA公演!!
2018.6.24(日) 下北沢 RHAPSODY
開場/開演=17:00/17:30
出演=大森洋平/ジョウミチヲ/高畠俊太郎
チケット料金=前売/当日:2,500円/3,000円(税込/¥1,000分drink券(スナック付き)別)
チケット販売=HPメール予約受付中!
問い合わせ=:RHAPSODY(ラプソディー) 〜acoustic live bar – shimokitazawa〜 03-5656-3511

ベーシックロックフェス 2018 BRF ’18
https://www.bassic.jp/brf2018.html
2018.7.7(土) 福岡 Voodoo Lounge
開場=17:00
出演=大森洋平 /  THE PRIVATES / 仲野 茂(アナーキー) / フルノイズ / ニューロティカ / MODERN DOLLZ / ウルフルケイスケ / The Blues One Nights / KING BEE feat.今給黎博美 / 190R / 少林兄弟 /THE VOTTONES / 高木まひこ(高木まひことシェキナベイベーズ) / The KH / ユダ(HONEY MAKER)etc…
チケット:前売 ¥4,300 / 当日 ¥4,800(共に+1D)通し券 ¥8,000
前売りメール予約: voodoo_fukuoka@yahoo.co.jp まで イベント名、日付、お名前、枚数、連絡先を明記下さい。
問い合わせ=Voodoo Lounge 092-732-4662・Bassic. 092-713-1040

DINNER LIVE at KORNER
2018.7.8(日) 佐賀 KORNER
開場/開演=17:00/17:30
料金=5,000円(税込)
◎コース料理(・前菜・カルパッチョ・サラダ・オススメ一品・魚料理・肉料理・黒カレー・デザート)+1ドリンク付き
※メール予約のみ 40名様限定
※予約受付6月9日(土)10:00〜
●予約専用メールアドレス htr.yohei@gmail.com
※公演日、予約者氏名、枚数、返信先アドレス、電話番号を明記してください。
問い合わせ=KORNER 0952-29-1622

「強烈なハッピーエンド」アフターパーティ!
2018.7.21(土) 大阪 cafe&bar LGT
開場/開演=18:30/19:30
出演=大森洋平/上田健司
チケット料金=4,000円(税込/1ドリンク(¥600)別)
チケット販売=店頭、HPメール予約受付中!
問い合わせ=cafe&bar LGT 06-6711-0223

2018.7.22(日) 名古屋 GURU×GURU
開場/開演=18:00/19:00
出演=大森洋平/上田健司
チケット料金=4,000円(税込/1ドリンク別)
チケット販売=店頭、HPメール予約受付中!
問い合わせ=GURUxGURU 052-764-9696

69 Paradise
2018.8.30(木) 吉祥寺 ROCK JOINT GB
開場/開演=18:30/19:00
出演= 大森洋平/新宿心音会板谷祐/GONDA
チケット料金=前売/当日:3,000円/3,500円(税込/1ドリンク(¥600)別)
チケット販売=店頭、HPメール予約受付中!
問い合わせ=ROCK JOINT GB 0422-23-3091